天草の﨑津集落と天主堂

9月17日に、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について政府が今月中にも世界遺産登録のための推薦書をユネスコに提出することが決定しました。これらの遺産は早ければ2016年中に世界遺産になります。

もし、来年に「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」が、そして再来年に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」がどちらも世界遺産に登録されれば、九州は、中でも長崎は、世界遺産だらけの土地になります。

熊本県の天草は、島原天草一揆(熊本県内では往々にして「天草島原一揆」)の知名度もあってか、度々、長崎県にあると誤認されますが、今回、天草の﨑津集落が「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成遺産として世界遺産に登録されれば、さらにその誤解は深まるかもしれません。

近代交通の発達により、島原が諫早・長崎方面と、天草が宇土・熊本方面と結びつきを強め、現在では島原と天草の一体感は薄れています。しかしいまでも島原の口之津の海岸に立てば天草の島々が目前に迫り、上天草の大矢野から見る雲仙普賢岳は生々しいほどの褐色の山肌を私たちに見せます。これらの景色を見ていると、いまは2つの県域に分断されたこの2つの地域の厚い交流の歴史に思いを馳せずにはいられません。

今年の夏、天草を訪れる機会がありました。
ひさびさの天草は、天候に恵まれ最高に楽しい場所でした。素晴らしい景観と、見どころの豊富さに、驚きました。

天草は、島嶼部としてはいまだに全国有数の人口規模を誇ります。
沖縄島は別格の100万余名の人口を誇りますが、全国のそれ以外の島嶼部で、人口十万以上の規模をもつのはわずか、奄美群島(12万)と淡路島(16万)、そして天草諸島(12万)のみです。(※かつて十万規模だった佐渡島は6万、五島列島は7万)

昔から多くの人の生活の舞台であった天草には、その痕跡としての文化財・史跡がたくさんあります。
今日、写真を載せる﨑津集落と天主堂もそのひとつ。﨑津天主堂を訪れる方は、天主堂の外観・内観を見るだけでなく、周辺の集落や港、海辺を散策してほしいと思います。羊角湾の入り江に張り付く漁村集落、そしてそのなかにそびえる尖塔。小さな漁村の褪せた色合いのなかに、この灰色の天主堂を見つけたとき、私たちは初めて、ある記憶のシンボルとして、その尖塔を見つめることになるでしょう。


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やはり漁村に抱かれたこの姿が最も美しい。


天主堂の向かいには金刀比羅宮の登り口があります。
タクシーの運転手に、もう上の公園も取り壊されちゃったし、登りだけで15分はかかる。暑いしきついしやめといたほうがいいよ、と言われましたが、登ると決めていた私は、400段以上の階段をひたすら登りました。
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美しい入り江とそこに佇む集落を見て、登ったかいがあったと思いました。

登った場所には「教会の見えるチャペルの鐘展望公園」というイマどきの名前の公園があったようですが、私が登ったときには、かつて存在したという巨大な十字架のモニュメントは取り壊されており、隅にチャペルの鐘が意味を失った鉄の塊として地面に置かれていました。
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もしこの場所が世界遺産になり、再び整備計画が持ち上がった際には、その方法を見直すべきではないでしょうか。カトリック教会の向かいに金刀比羅宮への登り道があること自体がこの集落の面白味であったはずなのに、展望公園の整備は、金刀比羅宮の存在を軽視して進められたためにいびつなものになった、その結果がいまの有様だと私は現地を見て感じました。既存のいかつい階段を撤去し、金刀比羅宮への自然散策道をつくる、そして散策道から羊角湾と集落の展望を楽しみ、金刀比羅宮で休憩して再び集落まで降りるコースを整備する、そうなれば、観光客たちはこの場所で、天主堂を見るだけではない楽しみを得ることができると思います。

もし教会群が世界遺産になれば、その教会を巡るツアーがさかんになるでしょう。
でも、単に教会という箱モノを周るスタンプラリー的な観光にどれだけの意味があるのでしょう。
﨑津集落が、これからも人々の生活の痕跡を垣間見ることができるトポスとして存在し続けることを願ってやみません。


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by terakoyanet | 2014-09-20 09:06 | 塾長おすすめの場所 | Trackback | Comments(0)