山本作兵衛の炭鉱画が世界記憶遺産に登録
2011年 05月 27日

2007年に田川市の石炭・歴史博物館を訪れたときに、この絵を見る機会がありました。
過酷な労働を描いていながら、人の体温を感じることができる山本氏の絵はずっと私の心に残っていました。
山本作兵衛は50年以上炭坑で働いたあと、66歳になって絵筆をとり、ヤマの記録を残し始めたそうです。山本氏はあくまで「記録」を目的としたため、絵の余白部分には解説文があります。これがまたいいんです。

炭丈「スミタケ」四五センチ位までは坐って掘るが、それ以下は寝て掘る
この低層炭は筑豊では至って少ない・・・
山本氏の「記録」がなぜ炭坑を直接知らない私たちの心の琴線をふるえさせるのか、と考えると、それは山本氏の絵が「炭坑で働く人たち」と「私たち」との接点を紡ぎだしてくれているからだということに思い当ります。
山本氏の絵からは、明治・大正当時の炭坑で働く人たちが、私たちと同じにおいをもった生身の人間として立ち現れます。そして添えられた説明文によって描かれた場面に臨場感と説得力が生まれます。
その結果、私たちは感じるのです。
この場所で、確かに、私たちと同じ泥臭い人間がここで生活をし、ここで汗水流して石炭を掘っていたんだ、と。
石炭を掘っていた彼らと私たちは、確かに関係しているのです。
彼らが石炭を掘ってくれたからいまの日本がある、福岡がある、とかそういう大きな話ではありません。
私たちと彼らは、喜怒哀楽を感じる人間としてこの世に同じように存在し、この世で楽しい日や悲しい日やつまらない日を過ごし、そして年をとって死んでいった。
私たちがいま存在しているように、彼らもかつて確かにそうやって存在していた。
山本氏の絵(記録)はそういった存在の温かみを感じさせてくれるのです。
存在の温かみを感じることは、私たちの人生の幸福のひとつではないでしょうか。
筑豊に行くことあれば、ぜひ田川市石炭・歴史博物館を訪れてみてください。
常設で「山本作兵衛炭坑記録画の展示コーナー」がありますし、その他、炭坑をリアルに感じることができるしかけがたくさんあります。
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