村上春樹 領土問題に関する寄稿文
2012年 09月 28日
全文はブックアサヒコムで読むことができます。
以下は抜粋
領土問題が実務課題であることを超えて、「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる。それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。論理は単純化され、自己反復的になる。しかし賑(にぎ)やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ。
政治家や論客は威勢のよい言葉を並べて人々を煽るだけですむが、実際に傷つくのは現場に立たされた個々の人間なのだ。
「我々は他国の文化に対し、たとえどのような事情があろうとしかるべき敬意を失うことはない」という静かな姿勢を示すことができれば、それは我々にとって大事な達成となるはずだ。それはまさに安酒の酔いの対極に位置するものとなるだろう。
安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲(にじ)むような努力を重ねてきたのだ。そしてそれはこれからも、何があろうと維持し続けなくてはならない大事な道筋なのだ。
あらゆる政治的立場が存在していますが、どの立場であっても、「実際に傷つくのは現場に立たされた個々の人間なのだ」という視点を譲らないことが肝要だと私自身日々考えています。
追記
*朝はブックアサヒコムのリンクから全文を読むことができたのですが、現在はできません。このような公共性の高い文章を読めなくしてしまった朝日新聞社の判断は残念です。
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