地理の学習法(公立高校入試)

私は日ごろ、中学生、高校生たちに地理を教えています。
先日、地理の一問一答形式の問題集をやっている生徒がいたので言いました。
「地理は一問一答をやっても点数を取れるようにならないよ。」

もちろん問題を解くための「最低限」の語句の知識が必要なのは言うまでもありません(ので、一問一答のテキストは捨てなさい、という話ではありません。だからその子にはそのテキストの使い方を説明しました)が、地理は公民や歴史に比べれば、語句の重要度が特に低い。高校入試の時点で、まるでセンター試験のようなデータや地図を読み解く力が必要になります。

例えば昨年の福岡県入試では次のような問題が出ました。

(1)地図上に記号で示された4か国(アメリカ、中国、マレーシア、日本/国名は明記されない)のエネルギー消費量と1人あたりのエネルギー消費量を示す表とグラフが示され、日本と中国の表とグラフはどれか答える問題。
→主要国の位置、及び日本と諸外国のエネルギー消費量と1人あたりのエネルギー消費量データ概要を頭に入れておくことが必要。具体的に言えば、先進工業国のなかでもアメリカは特にエネルギー消費量、1人あたりのエネルギー消費量が大きいことを抑えておくことが必要。

(2)石炭、原油、鉄鉱石いずれかの上位3か国(国名は明記されない)が表と地図上で示され、どの表がどの資源(石炭、原油、鉄鉱石)のデータかを選び、さらに該当する地図上の国名を答える問題。
→主要国の位置と名前、及び石炭、原油、鉄鉱石の産出上位国を頭に入れておくことが必要。

(3)赤道と本初子午線の交点を地図中に示された4点から選ぶ問題。
→この4つの点がとても近く表示されており、赤道と本初子午線を世界地図(メルカトル図法)に正確に作図できないと解けない。

(4)地図上に記号で示された日本の4地域(近畿地方、東北地方、中部地方、関東地方/地方名は明記されない)の本州における面積と人口の割合がグラフで示され、グラフで示された地方の名前を2つ答える問題。
→日本の各地方の形と名前、及び日本の地方別の面積と人口に関するデータを頭に入れておくことが必要。ちなみに出題された地図は地方別に縮尺が異なっており、実際には関東地方や近畿地方の約2倍の面積をもつ東北地方が、関東・近畿とほぼ同じ面積で表示されるなど、問題用紙を見て面積を「見た目」で判断した生徒は解答を間違ってしまうつくりになっている。

(5)地図上に記号で示された3府県(大阪府、奈良県、滋賀県/府県名は示されない)とその3府県のいずれかの総面積と過疎地域面積のデータが示され、そのデータがどの府県のものかを記号と府県名で答える問題。
→日本の都道府県の位置と名前、さらに各都道府県の総面積に占める過疎地域の割合(過疎化の進み具合)についての知識が必要。具体的に言えば、この問題においては、滋賀県よりも奈良県のほうが過疎地域面積の割合が高いという判断が求められた。

(6)地図上に記号で示された4県(兵庫県、山形県、愛知県、栃木県/県名は示されない)とその4県の耕地面積、使用電力量、製造品出荷額、製造品出荷額に占めるW業(※Wは示されない、解答は鉄鋼業)の割合のデータを見て、示されたデータがどの県のものであるか、また、Wは機械と鉄鋼のどちらかを答える問題。
→各県の位置と、耕地面積や製造品出荷額の大小(※耕地面積が大きいということは農業がさかんな県であり、製造物出荷額が大きいということは工業がさかんな県ということになるが、その判断さえも社会が苦手な生徒には困難である)、また兵庫県と愛知県を比較したときに、どちらのほうが製造物出荷額が大きく、さらに兵庫県は他県に比べ、機械業と鉄鋼業のどちらの方が製造物出荷額に占める割合が高いのかを判断する力が求められた。

(7)地図上に記号で示された3県(岩手県、新潟県、茨城県)の農業生産額の内訳(米、野菜、畜産物の割合)がグラフで示され、茨城県に当てはまるグラフを選び、さらにそれを選んだ理由を答える問題。
→茨城県は大都市圏に近いため野菜の生産が特に盛んであるという知識とそれを論述する力が必要。


以上のような問題ばかりが出題され、単純知識問題はほぼありませんでした。
だから1問1答を自力で1冊仕上げても、地理を得意にするのは不可能です。
だって上記のような細やかなデータ内容は1問1答テキストのどこにも載っていないのです。

このことは子どもたちにきちんと伝えなければなりません。
でないと必死の思いで勉強している子どもたちがかわいそうです。


地理ほど学校の授業の実態と公立入試の現実がかけ離れている分野が他にあるでしょうか。
中学生たちはいったいいつ上記のような知識を学校で教えてもらったのでしょうか。
上記すべてをフォローできるような授業が展開された学校が、いったい県下にいくつあったのでしょうか。

「自力で調査する」ことを求められた結果、何の知識もないのに調べ学習ばかりさせられ、調べ学習が破綻した学校においては、単なる市販プリントを解くだけの学習が行われ、都道府県学習においてはなぜか子どもたちは東京都と福岡県と山形県の知識だけ詰め込まされるなど、今年の中3生(と中2の一部)までが使っていた地理の教科書と旧指導要領はあまりにひどいものでした。

一方で、福岡県の入試では学校で行われた「調べ学習」の成果をはかるために、上記のような高度な地図及びデータの解析力を求める問題が多数出題されました。子どもたちが学校の「調べ学習」で受験に必要な高度なデータ解析力がついたかと言えば、もちろん答えはNOです。授業と入試の現実が乖離した結果、入試における地理の得点率は大幅に下がりました。

子どもたちにこの事実を伝え、入試に向けた地理の学習の具体的な方策を示すのが塾の仕事です。
農業、工業、人口、環境…各地域における多方面のデータが生徒の頭のなかで集積してゆき、最初は無関係で雑多に見えたそれらのデータが有機的に結びついて一本の糸が紡がれはじめたときに、それぞれの地域の輪郭がくっきり浮かんできます。そうやってはじめて地理を得意にすることができます。(これは新指導要領においても同じです。)

ですから子どもたちに各地域の輪郭、できるだけくっきりと可視化された輪郭を伝えられるような授業ができるよう、最後の追い込みに向けて準備中です。



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by terakoyanet | 2012-11-22 11:37 | 雑感・授業風景など | Trackback | Comments(0)