富士のおもひで ~富士山世界遺産登録記念~
2013年 06月 23日
中学生の皆さん、新たに日本の世界遺産をもうひとつ覚えることになります。
「富士山と信仰・芸術の関連遺産群」(静岡県・山梨県)は、世界「自然」遺産ではなく、「文化」遺産ですので、注意が必要です。
(*同じような間違えやすい例に「紀伊山地の霊場と参詣道[世界文化遺産]があります。)
十代の頃に太宰治の「富嶽百景」を読みながら、富士山を生で見たことはたった一度もないのに、やっぱり富士山が美しいなんて改めて言うのは、音楽ではビートルズが一番好きです、というのに似て、なんだか俗っぽくて恥ずかしいなとニヤニヤしながら思っていました。
二十歳になり、自分で貯めたバイトのお金で京都の立命館大の友人宅に遊びに行ったとき、突然「そうだ富士山に行こう」といきなり思いつき、翌日の始発普通電車に飛び乗って、てくてくと半日かけて三島駅まで行き、安ホテルで一夜明かした後、登山を決行しました。
バスで御殿場口新5合目に着いたのはすでに午後1時。帰りの時刻表を見ると最終は午後5時30分。
たった4時間半しかないのに、山頂まで行きたい。でも、手元のガイドブックには、往復9時間と書いてある。
どうしよう・・・。ここまで来たのにと考え込みました。
結論。走ろう。
そう、走って登ることにしました。
しかも登山靴ではなく、1800円のスニーカーで。
走って登り始めました。
私は当時、若かった。たくさんの人たち、家族連れをごぼう抜きです。快調に進みます。
しかし、すぐに足が痛くなりました。
足に豆ができ、つぶれます。
しかし、そんなことはほとんど気にならないのです。
登ることにひたすら集中しているのです。
9合目に差し掛かり、疲労が増してきました。
9合目付近では、とても小さな5歳くらいの男の子を連れた家族に会いました。
小さな男の子が頑張っている姿を見て烈火のようなやる気が出て、すごい勢いで家族を抜き去ると、背中の向こうから「早っ」と男の子が言っているのが聞こえました。
走り続け、わずか3時間ほどで山頂に到着です。
「日本最高峰富士山剣ヶ峰」の碑の前で、誇らしげに写真を撮ってもらい、10分ほど物思いに浸ったあと、午後5時30分のバスに乗るために大急ぎで下山します。何といっても最終バスまであと2時間を切っているのです。もし間に合わなければ、寒い新5合目で野宿。
9合目まで下っている途中でまたあの家族と会いました。
「ほら、もうあのお兄ちゃん下っているよ。」
お父さんが言いました。
私はとっさに
「下るの早すぎ!」
って自分自身につっこみを入れて、なんとなく恥ずかしくなって、下を向いたまま瞬く間にその家族とすれ違いました。
帰りは途中から「大砂走り」とよばれるコースを選びました。このコースは7合目から新5合目付近まで、火山灰や火山礫が砂のように柔らかく積もった斜面を滑るように下っていくので、1歩で2~3m進むことができるのです。
私はこのコースを暴走しました。何度も転びました。砂礫のなかにある石が足首に刺さり流血しました。砂塵を巻き上げながら進むので、全身真っ黒です。靴はいまや原型をとどめないほど変形し、何かの古代墓地から発掘された埋葬品のような風情さえ漂わせています。
己の若いパトスを感じながら、わずか90分で新5合目に到着。無事にバスに乗ることができました。
汚い人と思われて乗車拒否されたらイヤだったので、とてもにこにこしながらバスに乗り込みました。
その後、合計4回、富士に足をはこびました。
初めての富士は夏でしたが、その後はめでたい新春の初富士を見に行くことが多くなりました。
富士の美しさを語るには未熟な私ですが、これまでに見た美しい富士をいくつか載せたいと思います。












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