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バリ島で出会った人たち

9月にインドネシアに行った際にはバリ島とジャワ島に滞在した。今回、バリ島ではクロボカンにある小さなゲストハウスに滞在し、食事は他のビジターといっしょにとった。彼らは英語が拙い私にも辛抱強くつきあってくれたので、食事中にはたくさんの興味深い話をすることができた。日に日にその記憶が薄れていくので、忘れないうちに記しておこうと思う。

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ゲストハウスから徒歩3分のところにあったビーチ


最初の夜に話したのは、いかにも旅慣れした楽しげな雰囲気にあふれたオランダ人の老夫婦。部屋にやってきたゲストハウスのオーナーが言う。「この夫婦は奇跡なんだよ。」
二人は78歳と76歳の夫婦で、夫のダーンは筋骨逞しく、70代どころか60歳くらいにしか見えない。「なんて若く見えるんですか」と二人に言うと、横にいたリサが「ただ人生を楽しんでいるだけよ。」と言う。「あなたは何歳なの?」
私が39歳と答えると、ダーンがいきなりドーンと机に手をついて立ち上がり「なんてことだ、君は22歳くらいに見えるよ!」と叫ぶ。オーナーはじめ周りの人たちもしきりにそうだそうだと言う。海外では年齢を言うとしばしば過剰なほどに驚かれる。22歳と言われ、さすがに22歳の人たちに申し訳ない気持ちになった。

「日本人は若く見えるんだよ。」
日本人かと思われる若い男性と、それよりは10歳くらい年上と思われる白人の男性が部屋に入ってきた。
「はじめまして。日本のどこに住んでいるの?」
日本人と思われた男性は流暢な英語を話す。日本人ではないらしい。
「福岡です。日本の主要な4つの島のうち、最も南にある島の九州にある、南日本では最大の都市。」
「福岡なら知っているよ。私は釜山出身だから、福岡には何度も行ったことがあるから。」
「私も釜山は何度も行きましたよ。近くの慶州も何度か。」
「慶州、確かに韓国の中ではいいところだけど、京都のほうが何倍も素晴らしいよ。」
「京都は何度も行ったことがあるの?」
「何度も。日本で、いや世界で一番好きな場所だから。」
「私も京都は好きな場所です。数年に一度は訪れます。でも、京都は整いすぎていると感じることがあります。」
「どういうこと?」
「日本の文化には変化(移ろい)自体を楽しむというところがあります。それが西洋の庭園や建物との違いであり、石の文化と木の文化の違いだと思っています。でも、いまの京都を見ていると、例えば東福寺の完成された庭園と建物を見ていると、移ろいを楽しんでいるように見えません。それは整いすぎていて、変化よりも完全な美を求めているように見えて、それは私にとって少し堅苦しく感じるものなんです。その点、京都の山奥や奈良はいいですよ。」
「それは面白い話ですね。私も完全な美が好きです。ただそれが完全ならば一瞬のものでもいいのだけれど。」「それは良くわかります。」

そんな話を5分くらいしたあとに、彼らはじゃあねと去っていった。

彼らが去ったあと、ダーンが言う。
「実は彼らはゲイなんだ。君はゲイについてどう思う?」
予想外の展開にやや戸惑いながらも
「問題ありません。私はそういう人たちのことがむしろ好きです。」と答えると
「よかった。」とダーンは答えて、あっはっはと口を大きく開けて笑った。どこまでも快活な人だ。


次の日の夜も食堂に行くと、ダーンとリサが座って楽しそうにパスタを食べていた。
「ハロー!」とダーンにいきなりハグされて少したじろぎながら、なぜか「サンキュー」と口走ってしまって、ばかだなこの日本人、と自分で心の中でつぶやいた。
ダーンに「今日はどこに行ったの?」と尋ねると「ここだよ。」と言って笑われた。
長期滞在の彼らは、どこにも行かずにゲストハウスの小さなプールのそばで、何もせずゆっくり過ごす日が多いのだ。

この日は食べている途中に60代位の別の夫婦がやってきた。彼らはオーストラリアのパースからやってきた夫婦。「バリ島は何回目?」と尋ねるとウフフと笑って「20回目よ。」とジェニファーが答える。回数の多さに驚いていると、ウブドに別荘を持っていること、いまは数日ビーチで遊びたいからここに滞在していること、バリはオーストラリアから最も近い楽園だから、年に少なくとも3ヶ月は滞在していることなどを話してくれた。

「日本と言えば・・・」ジェニファーの隣に座っていたジャックがいきなり「キッキッキッキ」ときしむような笑い声を出しながらおもむろにタブレットを触りだし、ある写真を私に見せた。
「以前、東京に行ったときにカプセルホテルに行ったんだ!」「見てよ!こんなに狭いんだよ!!」そう踊るような声で言うジャックは最高に楽しそうだ。
「カプセルホテルでは、妻と別のフロアに泊まらなくてはならなかったんだ。カプセルホテルの部屋に入ったとき、妻との別れが寂しくて涙が出たよ。」そう言いながら夫婦で目を合わせて笑い始めた。「私も、寂しくて死ぬかと思った。」「そう、50年間一日も欠かさずに朝に訪れていたイレクションがその日に止まったんだ!なんてことだ日本!」もう涙が出るくらい夫婦で笑い合っている。幸せなふたりだ。

タブレッドでいろんな写真を見せてくれた。ブログを書いているらしく、パース近郊のベストビーチだよと言って見せてくれた写真の中で、2人は全裸で突っ立ったまま大笑いしていた。彼らはヌーディストらしい。彼らからはウブドの美味しいレストランのことも教えてもらったので、おかげで次の日には美味しいランチを食べることができた。

食べ終わって、そろそろ部屋に戻ろうかなと思っているころに、昨日話した韓国の彼と彼氏が入ってきた。
2人はバリで2週間前に出会ったばかりらしい。クタでダイビングツアーに参加し、そこで知り合ったらしい。
「バリにもきれいな海があってうれしかったよ。」
ヨンジュンはダイビングが好きで、これまでもいろいろなところで潜ったらしい。パラオやコロン(フィリピン)、クラビ(タイ)など、お互い行ったことがある場所がたくさんあって、話に花が咲く。
「でも、バリ島のビーチはベストだとは思えない。」
ダーンが言う。「僕もそう思います。」ヨンジュンが答える。
「あなたにとってのベストビーチはどこ?」私が尋ねると、ダーンは「いい質問だ・・・。」と考え込む。

「カリブの海はよかった。美しい緑色なんだ。でも、ベストとなると、イビサ島かな、そしてカナリア諸島。」
イビサは私も行ったことがある。
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イビサのビーチ

「カナリアは特別な雰囲気がある。自然がダイナミックで美しいし、そして食べ物もすごく美味しい。ハワイとイビサのいいとこどりだよ。」
カナリア諸島は十年来行きたいと思い続けている場所だ。実際に行く計画を立てたこともあるけれど、まだ実現していない。やはりできれば近いうちに行きたいと思った。

それにしても、旅先で旅について話すほど楽しいことはない。相手も旅好きだから、何の遠慮も躊躇いもなく話したいだけ話せる。

「韓国もチェジュはいいじゃない。」ヨンジュンの隣に座っている彼、アントンが言う。
アントンもオランダ人らしい。インドネシアの旧宗主国だからオランダ人がよく来るのか、たまたまなのかは分からない。

「いいよチェジュは。ノースショアにいいビーチがある。」
すかさずダーンが同意する。彼はきっとどこにだって行ったことがあるのだ。
「チェジュは山もいいですよね。」私が言うと
「そう、チェジュの山はユニークな形で美しい。」ダーンがすぐに相槌を入れる。
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済州島の漢拏山

「でも、沖縄がすごいじゃない!」ヨンジュンが言う。
「沖縄の海は本当に美しい。珊瑚もあるし、ダイビングもできる。」
「メインアイランド(本島)は珊瑚があまりないでしょう。慶良間まで行ったの?」
「そうそう、ケラマ。最高だった。トバさんが他に好きな沖縄の島をひとつ私に勧めてほしい。」
「慶良間もいいし、宮古もいいけれど、西表島が一番好き。僕は海だけではなく山もある島が好きで、西表は山や滝がすごいんです。イリオモテヤマネコという神秘的なネコもいる。気候も沖縄島に比べてかなり暖かいんです。冬でも泳げるくらい。いいカフェテリアもあります。」
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西表島の星砂ビーチ

ヨンジュンは西表についてその場でサムソンのスマホで調べて「絶対に行くよ」と目をきらきらさせていた。

「バリに良いゲイビーチはあったかい?」
ダーンがヨンジュンに尋ねる。「ゲイ専用というわけではないけれど、スミニャックのほうに、いいビーチバーがあって楽しかったよ。」
「バリはゲイの人たちにとっていい場所なの?」
「うん、いい場所だよ。みんな寛容だし。韓国や、中国、日本もそうでしょ?そういった国は全く寛容さがないんだ。ゲイが社会で生きていくことは難しい。インドネシアはイスラム圏だけど、バリはヒンドゥーだからね。みんな適当で、自然なことだと見てくれる感じがする。とは言ってもイスラム圏も最悪ではないんだ。トルコやイラン、パキスタンに行ったけれど、別に大丈夫だった、というか、壁を作られる感じがないというか・・・。北欧とかって、すごく寛容なイメージあるじゃない?でもあれは違う。セパレートするためのシステムが巧妙なだけなんだよ。」
ヨンジュンの話は本当に面白い。

すぐ傍ではジェニファーとジャックが、例の笑い声を出しながら、運転中に突然バイクのハンドルが左方向だけ動かなくなったトラブルについて話して盛り上がっていた。「バリ島は丸いから、右にしか曲がれなくてもいつかたどり着けると思って進もうとしたんだよ。でも知ってた?まっすぐな道はないんだよ。 だからカーブに対応できずに大きな車とぶつかりそうになってね。」そんな信じがたい話を激しいジェスチャーつきでオーナーに話すジャックはとても無邪気で、それを見ながらジェニファーはやっぱり笑っている。ふたりはいつもそんな感じなんだろうなと思う。

2泊しかしていないから、話した内容はその程度だけれど、その2晩の濃い記憶を思い出すたびに、また彼らと話してみたいと心は海の向こうへといざなわれます。




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by terakoyanet | 2015-10-26 00:08 | 連載(読み物) | Trackback | Comments(0)