絶景の話。
2016年 12月 07日
私自身も絶景が好きで、世界や日本、あちらこちらを周っているのですが、なぜそんなに絶景を見てうれしいかと言えば、その壮大な景観が目の前に広がるとき、いつも精神を制御している施錠が自ずと解除され、日々ささやかな事に拘泥してばかりの心から解放されるからだと思います。日々私たちは、自力で物事をどうにかしないとと思っている、でも、目の前の景色は、自力でどうにかしようなんてどだい無理だよ、あなたのその心を私に預けなさい、そう言っているかのようです。
ヨハネ福音書の14章に「心を騒がせるな。」というフレーズが出てきます。
そしてその続きには「神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい。」とあります。
この場合の「神を信じなさい」は、英訳では"Believe in God"になり、believe in...を私たちは「~の存在を信じる」と訳すと習っているわけですが、一方で、believeの語源には、「疑いを持たずに受け入れること」「相手の中に入り込むこと」という意味があります。in(聖書の原典のギリシャ語ではen)は「~の中へ」という意味ですから、"Believe in God"というのは、「神(の存在)を信じなさい」というよりは、「神の中に、その身を委ねなさい」、私はそう訳したいと思います。
「心を騒がせるな。神の中に、その身を委ねなさい。」 これは、歎異抄にも著された他力(本願)の考え方にも通じるものがあり、徒らに自我を震わせる私たちへの戒めとも取ることができます。
私はこの「心を騒がせるな」のフレーズを、先日の祖母の葬儀で耳にしました。
これまで何度聞いても入ってこなかったフレーズが、あるとき不意に心にすとんと落ちてくる。
そういうことってありますよね。
話が逸れました。絶景を見ると、心が開き、体がいきいきとした脈動を打ち始める。だから絶景の楽しみは尽きないのですが、一方で、絶景を「切り取る」ことについて、私は一抹の羞恥心を持っています。だって絶景を「切り取る」ことは、作為を免れません。その作為が私にいつも「それはほんとうではないよ」と耳打ちします。
絶景を「切り取る」のは傲慢です。才能のある写真家の中には、その風景に身を委ねたような写真を撮る(しかもそれがその写真家のひとつの解釈として成立している)人たちがいます。私の好きな石川直樹さんもそういう人のひとりです。しかし、それができない私は、写真を撮るという行為を楽しみながらも、どこかで気まずさを抱え込まずにはいられません。
また、絶景を「切り取る」ことで完成形の美しい画像を作り上げること。この思考は、日本という土地にたまたま生まれついた私たちの感覚とも乖離しがちです。西洋の絵画や庭園が、その幾何学的な精緻さによって完結した永遠性を求めるのに対し、日本の絵画や庭園は、その移ろい、変化自体を楽しむものでしょう。いくら非の打ちどころのない美しいものであっても、そこに移ろい、はかなさがなければ、その美しさは私とは縁の遠いものなのではないでしょうか。その点で、インスタでよく見る美しい風景写真たちは(これには私自身の写真も含まれるのですが)なんだか空疎さが免れない。一方で、写真が本職ではなくても、例えば民俗学者の宮本恒一が主に記録用に撮ったと思われる写真を見ると、そこに流れる土着の時間があり、そこに避けがたいはかなさがはっきりと映っていて、はっとさせられるのです。
話しがすっかり長くなりました。今回、絶景の話をし始めたのは、10月にある男子高校生に「文化祭で世界の絶景を紹介しなくてはいけない。自分か身近な人が実際に訪れたところ。そして他の人と被らないところ。」という難しい相談を受け、その際に、彼に絶景の紹介をするために、過去の写真をピックアップしたこと、そして絶景いいなと思いつつも、その際に、絶景を単にネタにして消費するだけの発表は空疎だよ、といらぬ忠告をして以来、何か書こうと思っていたことからでした。
以下、2016年から遡って、その年の中でべストの絶景。見たときの爽快な気持ちを思い出します。グランドキャニオン、エアーズロック、イグアス滝、万里の長城のような絶景のビッグネームには、まだ行ったことがないのですが。
〇2016 Lyse Fjord - Norway
〇2015 Mt. Bromo - Indonesia
〇2014 Gullfoss - Iceland
〇2013 Rock Islands - Palau
〇2012 Seven Sisters - England
〇2011 Kalalau Valley - Hawaii
〇2010 First - Switzerland
〇2009 Great Barrier Reef - Australia
〇2008 Hateruma Island - Japan
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