「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」(三菱地所アルティアム)に行ってきました。
2019年 09月 12日
現在、三菱地所アルティアムで開催中の「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」(企画協力Tara Books, ブルーシープ) に行ってきました。
タラブックスは南インドの玄関口といわれるベンガル湾に面する大都市チェンナイ(旧名マドラス)を拠点とする出版社。『夜の木』『水の生きもの』をはじめとするハンドメイド本で世界的に知られています。
今回の展示では『夜の木』の外国版のあらゆる表紙を見ることができたり、これまでタラブックスが出してきた本について、実物を手に取りながらその魅力に触れることができたりするのですが、私が特に心を揺さぶられたのは本の元になった原画の数々。トライバル・アートは、ややもすれば過去のもの、伝統的なものをいまの時代に再現したものと考えられがちですが、とんでもない、この絵はいまここに生きている絵なのだということをまざまざと見せつけられる思いがします。
展示に行かれた方は、ぜひ会場で上映されているビデオ類も見ていただきたいです。ある動画ではシルクスクリーン制作の行程を知ることで、いかに1冊1冊に手間がかけられているかということがわかって驚愕するし、別の動画では代表のギータ・ウォルフ、V・ギータや彼女だちといっしょに制作をしてきたアーティストたちの魅力と哲学をその言葉と表情からうかがい知ることができます。
これらの展示を通して私たちは、タラブックスの新しい魅力に気づかされることになります。展示の中の文章にも書かれているとおり、タラブックスを有名にした(そしてここ日本でも人気がある)ハンドメイド本は、タラブックスの出版物のうち2割を占めるに過ぎません。つまり、タラブックスの魅力はハンドメイド本に留まりません。ハンドメイド本は確かに美しい。でも私たちはすぐにハンドメイド「だから」すごい、と話を顚倒させてしまう。ハンドメイドというのはあくまで良いものをつくりたいという意志の自然な発露でしかないのに、いつのまにかハンドメイド自体に価値を置いてそれに権威づけをしてしまう。考えてみたら世の中の「ブランド化」というのもすべてそういった心象のもとにつくられている。でも、タラブックスはそういった欲望に大切なものを奪われないように慎重に仕事を続けているし、私たちタラブックスが好きな人たちもその猥褻な動きを警戒すべきだと思うのです。
私が昨年、チェンナイでギータ・ウォルフさんから話を聞いたとき彼女は、「ハンドメイドにかかわらず、新しい本の形、その可能性を探求している」と話していました。タラブックスは決してただ美しい本をつくっているだけではなく、それを通して世界の色と表情を少しずつ変えていくことに果敢にチャレンジしている出版社です。本のラインナップには、例えば教育に関するもの、女性や少数者(マイノリティー)の権利向上に関するものが多くあります。また、その制作物だけでなく、タラブックスという会社自体が、社内の一人ひとりの尊厳を大切にするという理念のもと運営されていて、そのことが社内で働いている人たちや制作に関わるアーティストの人生に明るい光を照射していることは、いくら強調してもしきれないくらいすごいことだと私個人は思います。(私自身、小さな会社を経営する人間として、会社で働く人の尊厳を守り、その人生を明るくすることがいかに大切なことかを頭では理解しているつもりです。でもほんとうにそれは一筋縄ではいかない大変なことだと思います。)
時間をかけて会場をめぐればいろいろなことが心に浮かんでくる展示になっています。会期は10月6日まで。ぜひ足をお運びください。
とらきつねでは10月2日(水)にタラブックスの展示を記念したトークイベントを開催します。今日・明日中にお知らせと予約を開始しますので、もうしばらくお待ちください。