自閉症とは何か
2007年 06月 29日
ひと口で自閉症と言っても、5人ともほんとうに五人五色、まったく個性の異なる子どもたちでした。
「風邪ぎみ」という言葉がありますが、自閉症にしても、AD(学習障害)にしても、鬱病にしても、健常と病態との境界はとってもあいまいで、「自閉症ぎみ」「ADぎみ」という感じが多いというのが実際のところだと思います。5人が病院でどのような経緯で、どのようなカテゴリーに入れられて、「自閉症」と言われたのかは私にはよくわかりません。ただ、わたしが面倒を見た子たちは、いわゆるアスペルガーとよばれるような、高機能の子たちが多かったかなという印象はかろうじてあります。
彼らのうち、女の子は2人いますが、女の子と接するのは異性のわたしにとってとてもとても難しいことでした。私は教える側の基本姿勢として、相手に愛情と関心を向け、相手の心に届くような言葉でもって指導することが大切だと思っているのですが、そういうこちらの考え、思いなどが全く相手(女の子)に伝わらない(ように感じる)とき、日ごろの私の指導の姿勢にある前提が音を立ててくずれるような感覚を覚えたこともありました。いまの私は、これらの経験によって、確かに相手に愛情を注ぐことは大事かもしれないが、ただし、その愛情が独りよがりであり、むしろ相手にとっては傲慢なものに見えてしまうこともある、ということを学んだと思っています。
一方で男の子たちは、とってもなついてくる場合があり、なつくどころか依存関係ができてしまって大変なこともありました。毎日のように私の自宅にやってくる子もいました。その子はほぼ毎日来るので毎日きちんとした応対ができるわけでもなく、実際には週に1・2回お話しできる程度でしたので、あるとき突然その子が激情によってうちに火でもつけたらどうしようと本当に不安になったこともありました。(これはけっして中傷ではありません。こういう不安というのはその状況にならないとわからないものだと思います。)
ある男の子は、指導の合間の休憩時間にいつもとっても楽しそうに私にジュースやお茶をついでくれ、毎回それを勧めてくれました。ただ、その男の子は常に全身をまさぐり続けるくせがあるので、勧めてくれる飲み物のなかには、しばしばよくわからない油みたいなものや鼻水などが浮いており、正直飲むのはとってもつらく、でも「飲んで!飲んで!飲んで!」「なんで飲まんと!!」とせがまれるので、その子を傷つけるわけにはいかず、息を止めてその飲み物を飲みほしたことも幾度かありました。
その子たちとのかかわりというのは、けっこうつらいことが多いのですが、でも、そのかかわりのなかで、ひとつだけわたしがゆずれないことは、その子たちは、けっして劣っているなどという理由で差別されるような対象にはなりえない、ということです。これはヒューマニズム的な考えで、人間皆平等なんてことを言っているのではありません。そうではなくて、ふつうに自然に考えて、その子たちにハンディはあっても、非は全くもってなく、そういう子たちを悪く(もしくは同情的に)言ったりする人がいるのは、単に悪く(もしくは同情的に)言う人たち側の問題であって、その子たちには全く関係のないことだということです。
子どもたちを抱えるご家族の苦労はすさまじく(私は「もうこんな子いやー!」というお母様の叫びを聞いたこともありますが、そのときはほんとうにどうしたらいいかわかりませんでした)、なんらかの支援が必要であることは確かです。でも、わたしは、その子どもたちを預かった教育や医療の現場においては、もっといまの前提を崩すようなやり方というのがあってもいいのではないかと思っています。いまの前提を崩すようなやり方というのは、健常と自身のことを思っている側が、もっと相手に寄り添って考えるということです。自分の立ち位置の安定を崩してでも、相手のほうに真剣に耳を傾けるということです。自分の方に相手を連れてこようとするのではなく、たまには自分から相手の方に行ってみようかとすることです。
自閉症をとおして私が考えたのは以上のようなことです。
娘は中3で不登校です。自分で勉強し、テストの成績もよいのですが、残念ながら希望ある未来とは言い難いです。少しでも社会の理解が進み、将来自立することが出来ればと願うばかりです。
現実的に一番シビアな問題としてあるのが、将来の自立ということですよね。周囲に深い理解を求めながら一歩一歩進んでいくというのは、本当に途方にくれるような作業だと思います。娘さんもいろいろと自分で考え、悩んでいることだろうと思います。保護者様も共に悩んで苦しんでいることだろうと思います。
いまより、ほんの少しずつでも、もっと生き易い環境というのが生まれていってほしいと切に願います。そして私も、微力ながら、そのために何か力になれればといつも思ってます。
それでも先生にネットであっても巡り会えた、嬉しい気持ちをフェイスブックで紹介させていただきました。
毎年4月2日は自閉症啓発デーです。全国、世界各地で催しものがあります。関心をお寄せいただけると嬉しいです。