カンニング行為について

最近アクセスが集中しているこちらの記事「カンニング行為について」ですが、この記事を大幅に加筆・修正したものを、2018年3月刊行の拙著『親子の手帖』に載せています。カンニング行為をした子どもと親の関係についても踏み込んで書いていますので、この記事が気になった方は、お手にとっていただければ幸いです。(2018年10月)
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日ごろ子どもたちにテストを受けさせていると、ちらちらと隣を見る子がいて気になることがあります。

子どもたちに言いたいのは、カンニングは本人がいくらバレないと思っていても、実際にはきっと9割以上の確率でバレていますよ、ということです。(この確率はうちのようにひとクラス20名ほどの場合ですが。)

注意されない=バレていない、と思ったら大間違い。こちらは「あっいま明らかにカンニングした!」と気づいても、なかなか面と向かって「お前いまカンニングしたやろ!」とは言わないのです。
これは、単に「カンニングに対して甘い」のではなくて、考えるところがあってのことです。


すぐに注意しない理由としては、まず1つ目の理由として、カンニングはその行為自体を100%実証することが難しい、ということがあります。罪が実証できなければ子どもからすればただ冤罪をなすりつけられたということにもなりかねず、そうすると、子どもとの間の信頼関係はガタガタになってしまいます。

2つ目の理由として、カンニング行為について、大勢のクラスの中で個人を断罪することは、その子にとって心の傷になることがある、ということがあります。大勢の前で「カンニングをした人」「ウソつき」というレッテルを貼られることは、その子にとってマイナスになることがあります。「どうせ私はカンニングするような人間ですから」と開き直った子になってしまうとどうしようもありません。ですから、カンニング行為への注意は否応なしに慎重になります。


さきほど「実証が難しい」と言いましたが、逆に言えば実証が難しいだけで、カンニング行為をしている子を見つけることはむしろ非常に容易です。

その子がカンニングをしているかを確認するためには、実はいくつかの方法があります。
その方法を例えばひとつ挙げると、試験監督が教室内を動いているときの子どもの様子を観察する、というのがあります。
試験監督が前にいるときにはカンニングをする子どもは警戒してちらちらとするだけですが、試験監督が自分の視界から消える=後ろの方に行き始める、とそのとたん堂々とカンニングをします。
子どもは試験監督が自分の視野から消えたことで、もう試験監督は後ろの方に行きはじめたから進行方向(またはその周辺)を向いていて自分の方は見ていない、と思っています。だからその瞬間子どもは大胆にカンニングをします。でも、実際には、わたしはちょっと遠くにいるカンニングをしているその子を見ながら移動しています。後ろから見ると、カンニングをしているその子は、カンニングをするその瞬間だけ私に横顔を見せます。
こちらが教室の後ろに静止している状況を続けると、子どもは逆にカンニングをしなくなります。視界から消えた状態が続くことは、子どもの警戒心を増幅させるからです。
ですから、教室を前から後ろに移動するとき、このときがカンニングを見分けやすいタイミングになります。

これは一例で他にもいくつか方法はあります。
ただ、これらの方法はいくらやっても実証に結びつきません。
実証するためには、例えば解答で、絶対ありえない同じ答えを共通して2名以上がいくつも書いていた、こういう場合でないと難しいです。カンニングの現行犯逮捕は、その子がカンニングペーパーでも持っていない限り難しいです。

でもカンニングを繰り返す子にはそれなりの指導をしなければなりません。
以前こういうことがありました。


ある模試の試験監督ときに突然ある子の不穏な目の動きに目が止まりました。
私のなかで、その子がカンニングをするということ自体、あまりに意外だったので、自分の目を疑いました。しかし、その子はその後も何度もカンニングを続けました。(その子のカンニングは、じーっと観察していないとわからないような巧みなものでした。) あまりに繰り返すので私はこのことを実証する必要があると思い、隣の子との解答を比べました。そうすると、案の定、ありえない共通の解答がありました。これは間違いない、と確信しました。

テストがもうすぐ終わるとき、わたしはどうしたもんだろう、と考えました。
私とその子との間には、それまでの2年間の指導で培われた信頼の気持ちが育っていました。私はそれまでの2年間の指導の間に、その子に対して「君の人間性を信頼している」ということを何度も表現してきていましたし、その子もそういう私の態度を見て安心して学習していました。
その子は生真面目なところがあり、今回の模試で点数が取れなかったら自分が親や私たち(先生)から責めを負うことになるだろうことに対して大きなプレッシャーを抱えていました。
いかなる理由があってもカンニング行為は許されません。しかし、目の前にいる繊細なひとりの子を見たときに、彼が私の正面からの断罪に耐えられるとは思えませんでした。ですから私は注意の仕方を変えよう、と思いました。

私はテスト終了後に全員の前で次のようなことを言いました。

「先生はいま、英語のテスト中にカンニングをしている子がいることに気づきました。その子はとても信頼している子だったのでびっくりしました。でも事実その子はカンニングをしていました。カンニングというのは、人を裏切る行為です。模試にかかわった人たち、先生、親、カンニングをした相手、を裏切る行為です。そして自分を裏切る行為です。カンニングをした模試の結果を見て、合格判定を見て、納得できますか? その結果や判定は正確なものではありません。そんな結果に騙されて、自分を騙したままで、そして受験に向かい、そしてこんなはずじゃなかった、そうなってしまったらどうするのですか? 
先生は普段もカンニングに気づくことがあります。カンニングというのは自分ではバレていないと思っていても、ほとんどの場合バレてるんですよ。先生たちは注意しないだけなんです。なぜかというと、それはその子が自分でカンニング行為のむなしさバカらしさに気づいてほしいという気持ちからです。
いま胸に手をあてて自分のことかもしれない、と思っている人、私はその人のことをこれからも信頼していくよう努めます。今日、先生はその子の弱さを知りました。でもその子のよさもたくさん知っているので信頼していくよう努めます。自分のことだと思った人は、少しだけ失われた信頼を取り戻すようこれから努力してください。カンニング行為を続けることで、少しずつ信頼を失っていくとしたら、とても悲しいことです。だから、自分で今回のことをよく考えてください。もう一度言うけど、先生はその人のことをもう一度信頼します。だからもう裏切らないでください。」

その子はこの話の間、青い顔で硬直していました。周囲の子たちも他人ごとではないというかんじで緊張した面持ちで聞いていました。
その後、その子のカンニング行為はなくなりました。お互いの信頼関係もその後深く傷つくことはなく、卒業していきました。
この話をしてその子の弱さ自体がなくなったわけではありません。しかし、何かを考える契機を与えることはできたと思っています。

カンニング行為を目の前で断罪されることは、そういうことに慣れていない子にとっては耐え難いことでしょう。しかしカンニングを放置はできません。
ここで集団に向けて話をしたことの有効性は、子どもに次のような印象を与えるところにあります。「先生が僕に向けて話したのかどうかはわからない。僕かもしれないけどもしかしたら別の人かもしれない。でもいまの話は僕にとって自分の問題だ。」と。
集団に向けて話すことで、個人を断罪することを避け、自分で考えさせる余地を残しつつ、伝えたいことを伝える、そのことを考えると、このような方法しかありませんでした。


カンニングに対する処置については今後もいろいろと考えていくことになるだろうと思います。

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Commented by かねごん at 2008-10-27 09:41 x
こんにちは。カンニングをする子は、自分に自信がないんでしょうね。間違ってもいいから自分が考えた結論を書き留めることで、自分の欠点なり不甲斐なさと向き合うことが出来るんでしょうが、先生がご指摘のように、点数という結果だけにとらわれて、さまざまな人を裏切っているという意識が持てないだろうと思います。
カンニングに対する叱り方は、私も時と場合によって非常に考慮する時がありますが、先生のような指導の仕方がいいと思います。とても参考になりました。ありがとう井ございます。
Commented by terakoyanet at 2008-10-28 13:00
かねごん先生コメントありがとうございます。
カンニングをする子が自分に自信がない、というのはその通りだと思います。自分よりできると認めている子の解答しかみようとしないわけですし。

カンニングをするのはまじめだけど自分に甘いタイプの子に多いと思います。指導のしかたは難しいですが、今後もお互いいろいろと考えていくことができたらいいですね。
コメントありがとうございました!
Commented by 中2生 at 2009-02-21 22:42 x
はじめまして。このサイトを見るのも初めてなのですが、コメントさせていただきます。
僕は名前の通り中学2年生なのですが、担当の先生に「お前、自分の解答見せただろ」と有りもしない疑いをかけられてしまい、あまり怒られたことのない僕はビックリしてしまいました。
さらに、それを聞いたクラスの子にもいじめられるようになってしまったのです。
僕はどうすればいいのでしょうか?
最後に長文失礼しました。
Commented by terakoyanet at 2009-02-22 02:48
中2生君、コメントありがとうございます。とても丁寧な文体ですね。

深刻で切実な悩みなのでどう答えたらよいか考えているところです。
明日(月曜日)にもう一度この場でお返事を書きますので、もう少し待っていてください。すぐにお返事できなくてごめんなさい。
Commented by terakoyanet at 2009-02-23 22:06
中2生君お待たせしました。
担任の先生には「やっていない」とはっきり主張しましたか? 
したけど聞く耳を持たなかった、または信用されずに流されてしまった、または先生が怖いから一旦認めてしまった、のどれかのような気がします。

こうなってしまった場合は、家庭(お母さんやお父さん)にお願いするしかありません。先生は、子どもの主張は聞かなくても、家庭からの意見や苦情は聞いてくれるはずです。いじめられていることも含めて、しっかりきちんと話してもらってください。最後に頼るべきは身近な大人です。

(つづく)
Commented by terakoyanet at 2009-02-23 22:08
有りもしない疑惑をかけられるのは、本当につらいですね。
ただ、疑惑を晴らすには、その相手と闘うしかありません。
闘うために、頭を使ってください。
頭を使うことは、そのほかの何の道具を使うことよりも有効です。
そんな疑惑をふっかけられるくらい先生から「頭がいい」と思われている中2生君ですから、きっと乗り切れると思います。


いじめについては我慢してはいけません。
いじめにあったらあるたびに大人(親や先生)に相談してください。

相談するのはこわいです。
でもきちんと話せばきっといい対処をしてくれるはずです。
話す勇気を持って下さい。

いじめる人間より、いじめられる人間のほうがずっと立派です。
自分に自信を持ってください。きっといまからよくなっていくと思います。


もし、以上の内容が、解決のための手段にならないようだったら、最寄りの「子ども相談室」や、何ならうちの塾でもいいから電話してください。

中2生君の未来に幸がありますように。
Commented by 中2生 at 2009-02-25 15:23 x
アドバイスありがとうございます。
何とか周囲の協力もあって解決することができました。
その先生はまだ僕を疑ってるようなのですが・・・そこはじっくり考えて、
自分で解決しようと思います。
アドバイスのおかげで解決することができました。
本当にありがとうございます。
Commented by terakoyanet at 2009-02-26 11:06
中2生君、よかったですね。
今回解決できたのも、中2生君自身の力です。
本当に自分で考えて行動できたんでしょうね。

こちらは励ますことくらいしかできませんが、解決してよかったと心から思っています。
いまから受験生ですから苦労も多いと思います。ぜひ充実した中学生活、受験生活を送ってください。応援しています。
by terakoyanet | 2008-10-27 07:03 | 寺子屋エッセイ(読み物) | Trackback | Comments(8)