東京から見た富士

今年の正月に東京の品川プリンスホテルに泊まったとき、ホテルの窓からちょこんと富士山が見えました。

東京から見た富士_d0116009_1522231.jpg


今年10年ぶりに東京に行った私にとって、東京から見る富士は初めてでした。



太宰治の「富嶽百景」のはじめのほうに、次のような文があります。

東京の、アパートの窓から見る富士は、くるしい。冬には、はっきり、よく見える。小さい、真白い三角が、地平線にちょこんと出ていて、それが富士だ。なんのことはない、クリスマスの飾り菓子である。しかも左のほうに、肩が傾いて心細く、船尾のほうからだんだん沈没しかけてゆく軍艦の姿に似ている。
三年まえの冬、私は或る人から、意外の事実を打ち明けられ、途方に暮れた。その夜、アパートの一室で、ひとりで、がぶがぶ酒のんだ。一睡もせず、酒のんだ。あかつき、小用に立って、アパートの便所の金網張られた四角い窓から、富士が見えた。小さく、真白で、左のほうにちょっと傾いて、あの富士を忘れない。窓の下のアスファルト路を、さかなやの自転車が疾駆し、おう、けさは、やけに富士がはっきり見えるじゃねえか、めっぽう寒いや、など呟きのこして、私は、暗い便所の中に立ちつくし、窓の金網撫でながら、じめじめ泣いて、あんな思いは、二度と繰りかえしたくない。



私は、この太宰のおセンチな文を読んだ高校時代からずっと、東京からの富士を見てみたい、と思っていました。
太宰は「富嶽百景」をはじめ、いろんなところで富士山の悪口ばかり書いているのですが、不思議なことに、私は彼が富士山をけなすたびに、むしろ彼がけなす富士を見てみたい、という気持ちが募ります。

彼の富士の描写は徹底的に彼自身の心象風景そのものです。目の前にある富士は、彼の心の鏡であって、どう見えるかは彼の勝手です。
風景というのはそもそもそういうものなのでしょうね。風景の美しさを感じる心は普遍ではなく、それは私たちが発明した楽しみのひとつにすぎない、と思ったほうが自然だと思います。
しかし富士の美しい景観を欲する私の心というのはどういうものなのでしょうか。考えずにはおれません。


私が東京から見た富士は、クリスマスの飾り菓子のわりには、ちょっと立派すぎると思いました。というか、飾り菓子のわりには周囲に馴染んでないんです。クリスマスケーキの中に金の鯱(しゃちほこ)を置いてみましたがどうでしょう、いやそれはちょっと待てよ、と言うような。



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Commented by とよ爺 at 2009-01-19 11:08 x
terakoyaさん、こんにちは。
私もこの太宰は読みました。
富士山をけなすのも、富士山の存在ゆえと思ったものです。
箱根から見ても、東京から見ても、きれいなものはきれいです。
Commented by terakoyanet at 2009-01-19 18:44
とよ爺さんこんにちは。
いつも富士山を眺めながらワンコと散歩しているとよ爺さんをうらやましく思っています。
Commented by 1521 at 2009-01-22 01:10 x
富岳百景と富嶽百景は同じ作品ですか?
富岳百景は今現国でやっていますが、文の最後のほうにある、
見知らぬ観光客から「富士をバックに写真を撮ってください」とカメラを渡されるにもかかわらず富士だけをめいっぱい写真に収めるところが太宰治らしくて(あまり太宰治を知らないけど)好きです。

ちなみに9mmのVo菅原さんは太宰治をはじめいろんな小説を読むのだそうで。あのずば抜けた歌詞力はそこから養われたんですねたぶん。
Commented by terakoyanet at 2009-01-23 02:13
1521君こんにちは!
富岳百景と富嶽百景は同じ作品です。
現国でやってるんだねー。

高校のころ最初に「富嶽(岳)百景」読んだときは、太宰にしてはインパクトがない文章のような気がして、ちょっとつまらなく感じたのだけど、大学になって読み返してびっくりしました。

とにかく話が上手い、盛り上がると思ったらわざと話を落とす、富士のあらゆる見え方を通して人が抱くいろんな感情を描ききっている、、、本当にすごいと思いました。

ロックやってる人は小説好きがとっても多いね。9mmもそうかー。
ロックのすごい人たちは一度は太宰・三島あたりの小説を通過してる人がいまだに多いと思います。
by terakoyanet | 2009-01-19 01:49 | 雑感・授業風景など | Trackback | Comments(4)